10月29日(土)、「石川楓子 with 横島礼理サロンコンサート」を聴きました。会場の美竹サロンは渋谷駅からほど近い場所にありながら、一歩足を踏み入れると、都会の喧騒が遠のいていくような、客席65席の小さな音楽ホールです。ピアニストの石川楓子さんと、NHK交響楽団のヴァイオリニスト、横島礼理さんは、桐朋女子高校(共学)時代からの同級生。この10年ほど、石川さんはドイツで、横島さんは日本で、それぞれ演奏活動を重ねてこられました。横島さんには、以前、N響奏者との共演体験提供を謳うピアノアンサンブルコンクール(Blue-T Records主催)でご一緒していただきました。ドビュッシーのピアノ三重奏曲の第1楽章の合わせの初回に、「この冒頭のフレーズが一番綺麗に響くテンポで弾きましょう」とおっしゃったことが心に残っています。優しさのなかにも、音楽に対する厳しさのある言葉でした。今回のコンサートでは、そうした横島さんの音楽への向き合い方に、客席から触れる楽しみもありました。
前半は石川さんによるピアノソロでバッハの「組曲」ヘ短調 BWV823、八村義夫「彼岸花の幻想」、フランク「前奏曲、コラールとフーガ」。重厚な響きのうちに情熱が感じられ、音楽に深く向き合う姿が印象に残りました。
後半は横島さんを迎えてのデュオ。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第10番は、私にはこれまで、どちらかといえば地味な、もっと言うと退屈に感じられていた作品でした。ところが、お二人の演奏を聴くうちに、その印象が変わっていきました。なんと奥行き、ウィットに富んだ曲か、とあらためて知る思いがしました。
シューマンのバイオリンソナタ1番では、揺れ動く心、そして甘美さが、演奏を通して昇華されていくようでした。切なさと憧れが入り交じる音楽ですが、今になって、これは青春期の音楽なのだと気付かされます。この曲にずっと張り付いている「焦燥感」は若さの裏面なのだと感じずにはいられないのです。
アンコールのブラームス《ハンガリー舞曲》第5番では、土の匂いを感じさせるような力強さがあふれ、会場の熱気も一気に高まりました。お二人が音楽のなかで弾けているようでした。それまでの繊細なやり取りとはまた違う、伸びやかな表情に出会えたひとときでした。
終演後には、帰途につく聴き手と演奏者が、一人ひとり短い言葉を交わしていました。音楽の余韻のなかで、感想や感謝を直接伝えてから帰る。その時間もまた、コンサートの大切な一部なのだと感じました。演奏者と聴き手の距離が近いサロンならではの温かな光景でした。
コンサートフライヤーは下記の通り(主催者公式サイト)
渋谷美竹サロン
https://mitakesayaka.com/wp-content/uploads/2026/07/5972619d97be76e73eb1a14c23b44857.pdf

