10月31日、11月1日に静岡大学静岡キャンパスにてキャンパスフェスタin静岡が開催され、両日とも13時から16時にかけ、共通教育B301教室にて当研究所の出展を行いました。31日は、「階段教室deストリートピアノ」、11月1日には、レクチャーコンサート2件。来場者にはもれなくQRコード集「ピアノとともに」を進呈しました。
ストリートピアノには、普段、グランドピアノに触れることがあまりない親子連れが、鍵盤に触れるのを楽しんでいたのが印象的でした。家での練習の成果を披露してくれた小学生も。
11月1日のレクチャーコンサートはまず『シベリアのバイオリンー収容所での文化活動について』。シベリアに抑留されるも廃材からバイオリンを製作、楽団まで組んだ父親の窪田一郎氏について綴った『シベリアのバイオリンーコムソモリスク第二収容所の奇跡』の著者である窪田由佳子さんのお話と、由佳子さんのピアノ独奏、由佳子さんのご長女で静岡大学卒業生でもある小澤実々子さんとのピアノ連弾に耳を傾けました。曲目は、ショパンがポーランドを後にする時、祖国に戻れないことを覚悟して姉に献呈した「ノクターン」20番 嬰ハ短調(遺作)、窪田一郎さんが好んでおられたベートーヴェンの交響曲「田園」第1楽章及び第4楽章のピアノ連弾、また、シベリアの収容所で演じられた劇中歌である「根室の灯」。窪田さんは、弾き語りで披露してくださいました。そして、窪田さんがご友人の望月たけ美さんに作曲を委嘱された、ロシア民謡「赤いサラファン」をテーマにした変奏曲「シベリア幻想曲」。最後は、平和への祈りを込めてバッハのカンタータBVW208「羊たちは安らかに草を食み」のピアノ連弾で締め括られました。
バイオリンが弾きたいばかりに渡航した満州で捉えられ、捕虜となりシベリア送りになった窪田さんのお父様の運命は過酷なものでしたが、その困難な日々をも、終始にこやかにお話になっていたのが印象的でした。音楽への愛を支えに過酷な状況をも生き延びたお父様に対する尊敬と共感が溢れているのです。その音楽への愛をご長女の小澤実々子さんも弾き継がれ、高校の音楽教員として教鞭を取るとともに、演奏家としての音楽活動を展開されています。窪田由佳子さんと小澤実々子さんの連弾は本当に息がぴったりと合っており、窪田一郎氏の思いがお二人にしっかりと受け継がれている様子に胸が熱くなりました。このレクチャーコンサートに寄せて次のような俳句を詠まれた方がいらっしゃいます。
ひと明かり都よ夢よ霜の道
これは、収容所での演劇の劇中歌の「根室の灯」に特に触発されたものでありましょう。困難な中でも一筋の光を求めて歩む、そのような思いの込められた句のようです。
第2部は「俳句から音楽へー連歌的藝術エネルギー変換の試み」。これは上記の俳句の作者でもある静岡大学工学部卒業生で金子兜太門下の俳人_竹内一犀さんの連作俳句を元にした長谷川慶岳先生の新曲発表の会でした。俳句連作のテーマは「緩歩動物クマムシ」。クマムシとは、体長1ミリにも満たない小さな動物で、4対8本の足でゆっくりと進みます。そこから「緩歩動物」との分類がなされているのですが、クマムシには、過酷な状況下では「乾眠」と言って、樽状の形になり活動を停止し、水分が与えられると再び活性化するという変わった性質があります。低温にも高温にも放射線にも強く、「地上最強生物」とも呼ばれます。私は、コロナ禍に入る前年、とある会合で、クマムシを研究する静岡大学の宮澤俊義先生よりお話を伺い「緩歩」という言葉とクマムシの生態を非常に面白く感じたことがありました。それが今年の6月のこと、新入生セミナーの「散歩」の日が雨に祟られ、大学のキャンパスミュージアム見学の振り替えたのですが、そこで、クマムシの展示に出会い、やはり面白く思い、ピアノ研関連のことでやりとりをしていた竹内さんにクマムシの句を一句所望したのです。すると即座に「クマムシや時間の縫い目癒しつつ」の一句が返ってきて、俳人というのは、面白いものの見方をするものだな、と感じ入ったものの、それ以上のことは特に期待していなかったのですが、竹内さんのなかで、クマムシのテーマが増殖。四季の流れや、人間の人生の時の流れとはかけ離れたような、悠然としたところのあるその存在感が俳人の創作意欲を大いに刺激したとみえ、あっという間に「緩歩動物クマムシ」の21句の連作俳句となり、それを元に教育学部の作曲家である長谷川慶岳先生が作曲くださることになったのです。長谷川先生は、AIに俳句の解釈とそれを踏まえた作曲の方向性の指示を生成させ、それを元に21句それぞれに作曲されました。驚くほどの急ピッチで出来上がっていきました。数日のうちに21曲、合計27分ほどの曲が出来上がったのです。さらに、SUNOという作曲AIに俳句を読み込ませ、女性の声による21曲からなる歌曲集まで生成させてくださいました。
竹内一犀さんは、奥様である竹内巴紅さんの前衛墨画「可」を、もう一つの作曲の題材として長谷川先生に差し出されました。これは、AIを介することはなく、長谷川先生は、墨画から受けたインスピレーションにより、電子鍵盤で即興演奏し記録された音源を会場で再生されました。長谷川先生は、「可」について二つの即興演奏を残されました。ワンテイクだったとのこと。当日は、巴紅さんも来場され、この墨画に込めた想いや、数々の偶然を経て、長谷川先生よる音楽の応答を得たことについての感謝を述べられました。
「俳句から音楽へ」の企画に携わり、数ヶ月に渡り、俳人の竹内一犀さん、美術家の竹内巴紅さん、そして作曲家の長谷川慶岳先生の創造力が組み合う渦の中に巻き込まれたような、楽しくスリリングな日々でした。
2本のレクチャーコンサートについては、静岡大学テレビジョンが収録、動画公開の予定です。

