インタビュー「ピアノとわたし」(6)

竹内彩佳先生

プロフィール

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ピアニスト、美作大学非常勤講師。Aya Piano Atelier主宰。
岡山県出身。浜松学芸高校芸術科音楽課程卒業。大阪音楽大学器楽科ピアノ専攻卒業。
東京音楽大学大学院音楽研究科修士課程修了。第4回東京国際ピアノコンクール一般部門第1位など、コンクール受賞歴多数。

インタビュー

―先生とピアノの出会いは?

3歳からヤマハの音楽教室に通いました。楽しかったです。リズム遊びをしたり、歌を歌ったり。その続きでピアノをやってみようかということになり、5歳でピアノを始めました。それからまずヤマハのアップライトを買ってもらいました。楽しくてずっとピアノを弾いていました。

―津山にお住まいとのことで、周りは自然に溢れていて外遊びも楽しそうに思いますが、ピアノで遊ぶ方が楽しかったのですね。

そうですね。ピアノを弾くのが楽しみでした。

―ピアノの道に進もうと思われたのはいつ頃のことですか?

小学校4年生の時です。とにかく、ピアノを弾いていたかったんです。ピアノの先生には、ピアノの道に行くなら、グランドピアノを買った方がいいよ、と言われて、親が買ってくれました。

―ますます練習づけなのですね。

そうですね、小学校一年生頃から、ピティナなどのコンクールに出場するようになりました。いつも何かしらコンクールの準備をしているといった感じです。

―高校は、地元を離れて浜松学芸高校の音楽科に進学されたのですね。

地元近くの高校に音楽専攻もあったのですが、音楽「コース」で、普通科の一部のようだったんです。それで、音楽専門の高校に通おうと思いました。入ってみたら、皆、音楽の道を目指す人たちで、日常的に音楽の話ができるのが楽しかったですし、またみんながとても真剣でした。

―高校は寮生活ですか?

いえ、市中のアパートを借りて一人暮らしです。ピアノも置かなくてはならないですが、防音のアパートではないので、アビテックスを入れました。グランドピアノが入るという触れ込みでしたが、サイズ的に難しくてアップライトを置きました。学校の練習室のピアノは、校門が閉められるまで弾いていました。土日になると、8時間9時間弾いていました。一番人生でピアノをたくさん弾いていた時期ではないかと思います。その時の蓄積が今に生きていると感じています。

―浜松国際ピアノコンクールは行かれましたか。3年に1回の開催ですね。

はい、高校2年生の時でした。コンクールはたっぷりと聴きました。とても刺激を受けました。

―大学は大阪音楽大学に学ばれたのですね。

はい、いろいろな先生のレッスンを受ける機会があり、どの先生に習いたいかによって進学先を決めていました。

―大阪音大では、たくさん弾かれたのではないですか?

そうですね。それが、時間がありすぎて、かえって弾かないということもあったりしました。もちろんコンクールなどは抱えていましたから、練習はするのですが。

―大阪の街を楽しまれるということもあったのでは。

そうですね(笑)。

―大学院は東京音大に進まれたのですね。

実は、大学院に進学するとき浪人しました。そのまま大阪音大を受験するということもあり得たのですが、レベルの上の学校を目指してみるのも良いのではないか、とアドバイスを受けました。東京音大大学院の院生は上手な方が多かったです。

―先生は練習される時に、どのようなことに気をつけていらっしゃいますか?

高校生の頃は、いつもスケールを全調さらい、それからバッハの平均律を弾くというのをまずやってからレパートリーに入るようにしていました。今は、限られた時間の中で練習しなくてはなりませんので、スケールを全調ということはしませんが。練習していて、頭が空っぽになって、ただ指を動かしているだけ、という時間が生じがちですが、できるだけそういう時間はなくなるように、ということは気をつけています。

―先生はロマン派の曲がお好きと聞きましたが

そうですね。今は、人前で弾く機会も多く、ショパンをはじめ、皆さんに馴染みの曲を取り上げることが増えました。「幻想即興曲」や「ノクターン」などですね。「英雄ポロネーズ」は、本当にとても喜んでいただけます。「英雄ポロネーズ」は、ずっと手を開いた状態にして和音をたくさん掴まなくてはならず、休めるところがなくて大変なのですが、練習しただけの甲斐はありますね。一方、大学院の時に取り組んだプーランクの『ナゼルの夜会』は、お客さんには少し難しく感じられたようでした。「手の上の心臓」にも、「あれ、なんだろう」という感じですね。一方、メシアンの『幼子イエスに注ぐ20のまなざし』より「16.預言者たち、羊飼いたち、東方の三博士たちのまなざし」は喜んでいただけたり、わからないものですね。

―「手の上の心臓」は『ナゼルの夜会』の中でもロマンチックでとても素敵な曲だと思うのですが意外です。メシアンの曲の方が馴染みにくいようにも想像されるのですが。

大学4年生の時、自由にリサイタルを計画して良いとなった時は、ブラームスの第2番ピアノ・ソナタを全楽章弾きました。30分ほどかかりますが、ブラームスはとても好きだったのです。

―先生は、たくさんのコンクールに入賞していらっしゃいますね。コンクールについてはどのような思い出がありますか?

大体、コンクールはエチュードと自由曲、という組み合わせが多いんです。練習曲はショパン、ラフマニノフ、ドビュッシーの練習曲などですね。その練習曲を冒頭で弾くというのが本当に緊張するんです。自由曲に関しては、コンクールで初めて仕上げる、というのではなく、発表会や演奏会で一度は弾いた曲を取り上げるようにしていました。コンクールは緊張しますから、不安のある曲は取り上げられません。

―コンクールの緊張は大変なものでしょうね。先生のホームページにショパンの「黒鍵のエチュード」がアップされています。とても爽快に弾かれています。「別れの曲」のようにゆったり始まるエチュードもありますよね。

それが、コンクールではショパンのエチュードに関しては「別れの曲」は除外する、となっていることが多いんです。

―そうですか。中間部の和音の連続などは、エチュードらしいとも感じますが。ところで先生はイタリアでの音楽祭に参加なさったのですね。

大学院で習っていた先生が毎年教授として参加されていた関係で、2016年にイタリアのペルージャ音楽祭に参加する機会を得ました。夏の間、滞在してピアノを練習することができたのですが、冷房はなく、みなさん、暑いので窓を開けたまま練習するんです。日本の練習室というのは窓もなく閉鎖的な空間ですけれど、イタリアでは、光が差し込む開放的な空間で練習することができました。おじいさんが路上でヴァイオリンを弾いていたり、町中に音楽を楽しむ雰囲気が溢れていました。

―先生のホームページを拝見しましたが、とても充実しています。先生は、とてもお花が好きでいらっしゃるのですね。インスタグラムも拝見しましたが、花のある美しい写真が多くて、でどれもポストカードにしても良いくらいです。先生がこんなに花を好きでいらっしゃることと、ピアノは何かつながるところはあるでしょうか?

竹内先生のお庭のミモザやお花

竹内先生のお庭のミモザやお花

竹内先生のお手製ケーキ

竹内先生のお手製ケーキ

そうですね。どちらも「生」だということですね。それから手をかければそれに応えてくれます。私は庭の手入れもよくします。

―なるほど!花束を贈られる機会も多いようですけれど、窓辺でチューリップの水耕栽培をなさったり、お庭を丹精なさったりもしていらっしゃるのですね。インスタグラムにお庭のミモザの花の写真があって印象的でした。インスタグラムには、かわいいお菓子やお手製のケーキの写真も。とても生活を楽しんでいらっしゃることが伝わってきます。大学での授業やレッスン、それにリサイタルの予定、とお忙しいとは思いますが。大学ではどのような授業を持っていらっしゃいますか?

幼稚園や小学校の先生を目指している方のピアノ個人レッスンを受け持っています。自宅のレッスンの方では、大人の方も見えています。

―レッスン室にはヤマハのピアノとベヒシュタインのピアノが並んでいるのですね。素晴らしいです。生徒さんはどちらを弾かれるのですか?

竹内先生のレッスン室

竹内先生のレッスン室

ヤマハの方ですね。私がベヒシュタインで弾いて見せたりします。

―ベヒシュタインを自宅に持っていらっしゃる方は珍しいと思うのですが、いかがですか?

ピアノを選ぶ際には、ヤマハ、河合、スタインウェイその他、色々弾き比べたのですけれども、このピアノがピンときたんです。夏場は湿気に弱かったり、扱いが難しいところもあります。また鍵盤が少し浅めです。ヤマハやスタインウェイとは全く違った響きです。なんというかコツンと鳴るところも好きなんです。

竹内先生のベヒシュタイン

竹内先生のベヒシュタイン

―ベヒシュタインに似合う音楽というのはやはりあるでしょうか。

古典派でしょうか。

―ホームページをみたら、クラシックだけでなく、ポップスなども弾かれていますね。そうした曲も聴かれるのですね。

はい、良いなと感じたものは自分で弾いてみています。リサイタルでも、皆さんの反応もありますし。

―インスタグラムで拝見したのですが、反田恭平さんや角野隼斗さんのコンサートを聴かれたのですね。

とっても素晴らしかったです。角野さんは、自作曲も弾かれたり、本当に自由な発想でピアノを弾かれていています。現代的で洗練されていて。堪能しました。反田さんは、クラシックのスタイルをしっかりと引き継ぐスタイルです。全く違う方向性ですね。反田さんのコンサートでは、ご自身が指揮をされながらピアノを弾かれました。ピアノがオーケストラの方を向いているのです。反田さんのコンサートではYouTubeでは伝わらない、生の音、コンサートホールならではの表現というのがあることをとても強く感じました。

―今後のご予定は?

来年2月のリサイタルのプログラムについて思い巡らしているところです。繰り返し足を運んで下さるお客さんもいらっしゃるので、変えていく部分もなくてはならないですし。

―リサイタルのご成功をお祈りしています。今日は、お忙しい中、ありがとうございました。

(聞き手・安永愛)