インタビュー「ピアノとわたし」(8)

齊藤百音さん

プロフィール

斎藤百音の写真

浜松医科大学医学部医学科2年生。浜松医科大学ピアノ同好会代表。

インタビュー

―齊藤さんは、浜松医科大学ピアノ同好会の代表を務めていらっしゃいますね。昨年暮れには、クリエート浜松で開催した静岡大学の同好会である浜松ピアノサークルの第一回コンサートにご来場くださいました。コンサートの後の空き時間で、ショパンの「舟歌」を本当に鮮やかに弾いておられて、圧倒されました。齊藤さんのピアノとの出会いについてお話いただけますか?

ピアノを弾く斎藤さん

ピアノを弾く斎藤さん

幼稚園で行われていたヤマハのグループレッスンから始めました。年少の時です。レッスンの時はピアノではなくエレクトーンでしたが、家では昔母が使っていたアップライトを使っていました。それから2年くらいして、ピアノの個人レッスンに切り替えました。ピアノはずっと好きで、その頃から「ピアニストになりたい」と言っていたようです。年長の時初めて出たピアノのコンクールで奨励賞をもらった時は、とても嬉しかったです。それもあって、コンクールにはほぼ毎年出ています。母はピアノに関して熱心で、いつもコンクールについてきてくれます。父はあまり関心がないようでしたが、小3の頃にグランドピアノを買ってもらいました。

―コンクールはとても緊張すると聞きますが。

そうですね、もちろん緊張はしますけど、勝負事が好きというのと、頑張って練習したら結果が出るというのが楽しいです。

―中学校では部活には入られていましたか?

吹奏楽部でフルートを吹いていました。複数人で音楽を創るという、ピアノではできない経験ができて楽しかったです。大会もなく緩い部活だったため、ピアノにたくさん時間を割くことができました。音大に行きたいと思っていたので、音高受験も考えて、浜松にお住まいの東京藝大の先生にも師事していました。でも、コンクールでは予選は通っても、なかなか全国大会までは進めなかったりする。それでピアノの道に進むのは難しいのではないか、と考えるようになりました。音高に進学しないのなら藝大の先生のところに通い続ける理由もなくなります。それでレッスンを一度やめてみることにしたんです。中2の夏のことでした。レッスンと離れてみて、やっぱり自分はピアノを弾きたいんだ、ということが本当によくわかりました。それでまたレッスンに通い始めました。結局レッスンをやめていた時期は2、3ヶ月だったと思います。そこからはコンクール仲間に紹介していただいた先生に見ていただくようになりました。

―国公立の医学部受験というのは、大変難しいですよね。かなり勉強も頑張られたと思います。その一方で、ピアノも続けておられたのですね。

中学の時はあまり勉強していなかったため高校受験に失敗して、私立の高校に通うことになったのです。ピアノの道を諦めてからは医師になると決めたので、高校では勉強第一で行こう、と必死で頑張りました。それでも、本番がないと頑張れないタイプなので高1、高2の時もコンクールには出ていました。一人暮らしをしたらグランドピアノを置けないというのもあって、地元の浜松医大に進学してピアノも頑張るのを目標にしていました。

―医師になろうと思われたのは、いつ頃ですか?

そうですね。周りに医療職や医療職を目指す人が多く身近に感じていたということもあって、中学生の頃から医師という職業は気になっていました。

―現役で浜松医科大学に進まれたんですね。勉強もピアノも頑張って、すごい集中力だと思います。浜松医科大学のピアノ同好会を立ち上げられたのは、どのようなきっかけですか?

周りにピアノを弾く友人が二人いて、色々話しているうちに、大学にピアノサークルがあるといいよね、という話になり、それなら作っちゃおう、と軽いノリでした。

―3月に浜松医科大学ピアノ同好会のスプリング・コンサートを拝聴しましたが、皆さん大変お上手でした。医学の勉強でお忙しいでしょうに、他の部活も兼部されている方が多くて驚きました。

そうですね。運動部か管弦楽団などに入っている方が多いですね。

―齊藤さんは、ボート部にも入っていらっしゃるのですね。

はい、それと茶道部です。

―そうなんですか!それは、すごいですね。

ボート部は早朝に練習するんです。ピアノは早朝は弾けませんから、ちょうど良いなと思い入部しました。月曜から土曜まで、早朝に佐鳴湖でボートの練習をしています。茶道部は週1回です。

―時間を無駄なく使っていらっしゃるんですね!

齊藤さんは、この間、ピアノとウェルビーイング研究所メンバーとヤマハのイノベーションロードの見学をした際、美しいクリムトの絵が描き込まれたベーゼンドルファーでショパンの「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」を本当に華麗に弾いていらっしゃいましたね。ショパンがお好きなのですか?

イノベーションロードにてピアノを弾く斎藤さん

イノベーションロードにてピアノを弾く斎藤さん

はい、ショパンは一番好きな作曲家です。「バラード1番」、「スケルツォ2番」、エチュードを何曲か、ポロネーズ、それからプレリュードなどを弾きました。ピアノ教室の発表会で最近弾いた曲は、ショパンやリストが多いです。リストは「メフィスト・ワルツ」や「パガニーニの大変奏曲」などです。コンクールでは、自由曲ではあまりショパンなどは選びません。ショパンなどの有名曲は個人の解釈ができあがっていて、受け付けない、というのがはっきりしている審査員の先生も多く厳しいのです。もちろん選曲が全てではありませんが、このような理由から近・現代曲を取り入れることが多いです。昨年はプロコフィエフのソナタ第3番をコンクールで弾きました。コンクールの自由曲選びの時は、自分があまり好まない曲でも勉強のために選ぶこともありますし、最近は勝ちやすいかどうか、という視点でも考えて、先生と相談しながら選曲します。

―なるほど、コンクールには戦略が必要なのですね。やはり相当な難曲を弾かれるのですね。難しいからこそ弾きたくなる、というピアニストの心理もあるように思います。この間、齊藤さんが音大生に伍してピアノ・コンクールに入賞されたと伺いました。

はい、知名度の高くないコンクールなのでそんな風に言っていただくのはお恥ずかしいのですが、全日本ジュニアクラシック音楽コンクールの「大学2年生」の部で4位をいただきました。

―医学生としての勉強も頑張りながら、立派な結果だと思います。ところで齊藤さんは、今度パリとワルシャワで、3ヶ月間ピアノの個人レッスンを受けに行かれると伺いました。やはりショパンという作曲家を意識してのことなのですか?

そうですね。ショパンはポーランド生まれでパリでたくさん作曲をしていたので。昨年、2年次前期で単位を落として留年をしたため、今年度は8月末に試験を受ければフリーになります。なので今しかないと思い、9月から12月にかけてパリとワルシャワでピアノレッスンを受けることにしました。エージェントに頼むと費用がかさむので、できる限り自分で手配をしました。

―それはなかなか手間がかかることだったと思いますが、大変な熱意ですね。パリもワルシャワも初めてとのことですね。

ヨーロッパは初めてです。フランス語とポーランド語の勉強もしています。

―そうですか。やはり大学ではフランス語を選択されたのですか?

第二外国語は必修ではないため、選択しませんでした。フランス語とポーランド語は独学です。

―まず、パリからですか?

パリに行って、ワルシャワに行って、またパリに戻ってきます。ワルシャワではちょうど10月に第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクールが開催されるので、それを聴きたいと思っています。コンテスタントたちはショパンの時代に使用されていたプレイエルやエラールなどのフォルテピアノでショパンの曲を弾くので、どんな響きなのか聴いてみたいのです。

―現在のスタインウェイのようなパワフルな楽器の響きとはかなり違いそうですね。第1回のピリオド楽器コンクールでは、日本人が入賞なさっていましたね。

そうですね。川口成彦さんが2位を受賞されました。

―パリ、ワルシャワと素晴らしい滞在になりそうですね。

大学生の今しか、時間がないと思いますので。ショパンの過ごした場所の文化や気候などを存分に肌で感じて、演奏に繋げたいと考えています。

―どのようなお医者になりたいとお考えですか?

生まれ育った静岡県に貢献できる産婦人科医になりたいと思っています。

―そうですか。お医者としても活躍され、ピアノも弾けるといいですよね。静岡大学浜松キャンパスの同好会である浜松ピアノサークルと浜松医科大学ピアノ同好会との交流もあって、いいなと思っています。SNSで繋がったのですね。

はい、Twitterで静岡大学で活動をしているピアノサークルのことを知りました。

―今は、そういう風にして縁ができていくのですね。ピアノとウェルビーイング研究所の活動を通して、私も浜松医科大学の皆さんとの縁ができて嬉しく思っています。ところで齊藤さんは、浜松育ちで浜松に住んでおられますけれど、浜松というのは世界のピアニストにとって特別な響きを持つ街ですよね。

あまり普段は考えないのですけれど。ヤマハやカワイがあってピアノがたくさん作られているというのは大きいですよね。

―3年に1回の浜松国際ピアノコンクールは、聴きに行かれたことがありますか?

はい、開催される期間はアクトシティに通い詰めます。他にも浜松国際ピアノアカデミーの受講者の公開レッスンやコンサートもよく聴きに行きます。

―そういった世界的コンクールも身近な感じなのですね。パリ、ワルシャワでの滞在、楽しみですね。また、彼の地での音楽シーンについて、折々報告ください。研究所のホームページにアップしたいと思います。
今日は、ありがとうございました。

(聞き手・安永愛)