ヤマハイノベーションロード見学

2023年6月17日、静岡大学ピアノとウェルビーイング研究所メンバー(浜松医科大学 山岸覚、静岡大学人文社会科学部 横田宏樹、安永 愛)および、浜松ピアノ・サークル代表の和田善尚さん、浜松医科大学ピアノ同好会代表の齊藤百音さんの5名で、浜松市のヤマハイノベーションロードを見学しました。


見学ツアー参加者全員での記念写真

見学レポート

ヤマハイノベーションロードは、山葉寅楠による1887年の創業から今日に至るまでのヤマハの歩みを楽器と共に辿ることのできる体験型企業ミュージアムです。本研究所発足時に研究開発統括部部長の鈴木克典様より、「〈感動を・ともに・創る〉-私たちは、音・音楽を原点に培った技術と感性で、新たな感動と豊かな文化を世界の人々とともに創りつづけます」との企業理念をお伺いしました。まさにピアノとウェルビーイング、音楽とウェルビーイングを目指し続けてきたヤマハに、研究所としても大いに学びたいと思い見学会を企画しました。巨人の肩に乗るような思いです。

では、当日の様子です。

ヤマハのロゴと、施設内の横断路
ヤマハのロゴ(左)と施設内の横断路(右)

受付からミュージムアムに続くスペース。グレーの壁にヤマハのロゴがクールです。敷地内の横断路には、ピアノの鍵盤の形にラインが引かれています。

イノベーションロード入口に展示されているバイオリン
イノベーションロード入口に展示されているバイオリン

ガイドツアーの始まりです。
クラシックなヴァイオリンの左は、サイレント・ヴァイオリン、右はステージ用エレクトリック・バイオリンです。新しい音楽の楽しみ方を可能にする新技術が駆使されています。高品質はもちろんのこと、楽器としての美しさも目指しています。

最新モデルのコンサートグランドピアノ・ヤマハCFX
最新モデルのコンサートグランドピアノ・ヤマハCFX

左は、2022年3月にリリースされた最新モデルのコンサートグランドピアノ・ヤマハCFXです。右はヤマハの最小グランドピアノです。CFXの奥行きは、最小型の約2倍です。ガイドさんの弾いてくださったラフマニノフのピアノ協奏曲第2番冒頭は、とても煌びやかに響いていました。

ピアノの断面
ピアノの断面

ピアノの断面です。アクションの構造は実に複雑です。

楽器の素材である木材
楽器の素材である木材の紹介とその工程

楽器の主な素材は木材です。良い音を求めて、またサステナビリティも配慮しながら、楽器づくりのイノベーションは続きます。素材の厳選と何段階もの工程を経て、美しい響きが作られていきます。


寅楠が初めて完成させたオルガン(左)と寅楠が描かれたレリーフ(右)

寅楠が初めて完成させたオルガンです。また、東京に搬入するため、オルガンを担いで箱根の関を越えようとする寅楠が描かれたレリーフも存在しました。

製造初期のピアノ
製造初期のピアノ

製造初期のピアノです。Nippon Gakkiのロゴが記されています。

製造初期のアップライトピアノ
製造初期のアップライトピアノ

製造初期のアップライトピアノです。燭台がついています。

戦闘機用のプロペラ
戦闘機用のプロペラ

戦時中、楽器が作れなくなり、戦闘機用のプロペラを製造することで廃業を免れました。戦後は、プロペラ開発の技術がオートバイ生産の技術に転用されることになります。

初期のエレクトーン
初期のエレクトーン

初期のエレクトーンです。木質感たっぷりです。

ギター
ギター

ギターの生産も始まります。エレキギターの美しいこと!

アーチェリーとスキー板
アーチェリーとスキー板
リヒテルが最後に来日公演を行った際に弾いたヤマハのフルコンサート・グラン

リヒテルが最後に来日公演を行った際に弾いたヤマハのフルコンサート・グランド

戦後、ピアノ製作の技術の進展も目覚ましく、ヤマハのピアノがヨーロッパ老舗のピアノに伍するようになります。これは、1994年にリヒテルが最後に来日公演を行った際に弾いたヤマハのフルコンサート・グランドです。その公演を懐かしく思い出し、公演でリヒテルが弾いたグリーグの『抒情小曲集』冒頭の「アリエッタ」を弾いてみました。感無量でした。

エフェクト機器
エフェクト機器

ヤマハはシンセサイザーの開発も進めていきます。楽器を製作するだけではなく、音の環境を作っていくため、エフェクト機器の開発も進められていきます。

バーチャルステージ
バーチャルステージ

「バーチャルステージ」です。バーチャル映像と連動した楽器の自動演奏により、コンサート会場さながらのライブ演奏を楽しむことができます。演奏者は目の前にはいないのですが、ものすごいライブ感です!

ウィーンの老舗ベーゼンドルファーの特別エディションのピアノ
ウィーンの老舗ベーゼンドルファーの特別エディションのピアノ

ガイドツアーを終え、ピアノ・マニアたちは、さっそくピアノの試弾です。この美しいピアノは、ヤマハが100%出資するウィーンの老舗ベーゼンドルファーの特別エディションで、ピアノの屋根の裏側にクリムトの「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」が精巧に描き込まれています。世界で25台しかないそうです。弾いているのは和田さん。カプースチンのプレリュード4番を鮮やかに。

「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」を弾く齊藤百音さん
「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」を弾く齊藤百音さん

同じく、ベーゼンドルファー特別エディションでショパンの「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」を弾く齊藤百音さん。ベーゼンドルファーの響きにすっかり魅了されたとのこと。

ショパン「バラード3番」を弾く安永
ショパン「バラード3番」を弾く安永

ショパン「バラード3番」を弾く安永。入れ替え時間ギリギリまで粘ってしまいました。

見学を終えて:研究所メンバーの感想

山岸覚

日本で楽器演奏している方は多く、中でもおそらくピアノ人口が一番多いのではないか思います。そのピアノ作りが浜松を中心に行われており、こうした見学できる場所があるというのは大変嬉しく思います。楽器演奏は聴覚だけでなく、体性感覚野、運動野も大変重要です。視覚も使っています。音楽はこうした多くの神経細胞群を駆使して繰り出されることにより、心に響くのかなと思っております。

横山宏樹

楽器は浜松地域の発展の歴史を作ってきた産業の一つです。世界に誇る楽器メーカーが集まっていることで、浜松は音楽そして楽器の街として社会もつくられてきました。そのなかで、ヤマハイノベーションロードは、子供から大人までが音楽や楽器に触れながら学ぶことができるだけでなく、ヤマハの技術と歴史そして夢がつまった素晴らしい空間でした。

安永愛

医療器具の修理者であった山葉寅楠が、ひょんなことからオルガン修理を任され、オルガン製作、ピアノ製造へと一代で突き進んでいったそのパイオニア精神に感銘を受けました。楽器を製造できなくなった戦時の総動員体制の中で軍用機のプロペラを製作することで企業として生き延び、戦後は技術力を活かし、多角的な経営に乗り出し世界に冠たる巨大楽器・音響企業に成長したヤマハ。中核には優れたピアノへの飽くなき探究心があると改めて感じました。イノベーションロードは、ヤマハの歴史、そして私たち日本近代の歴史を映し出すと共に、最新モデルのピアノやバーチャルスタジオ、サラウンドシアターなど技術の粋を集めた、まさに〈感動〉空間でした。