東京音楽コンクール

東京音楽コンクールポスター

東京音楽コンクール
写真(第21回東京音楽コンクールWebサイト

ピアノのご指導をいただいている佐藤祐子先生より、東京音楽コンクールのファイナルに、幼い頃から演奏を聴いてこられたという島多璃音さんが残っているとのことを伺い、8月27日に東京文化会館にて、当日券を購入し、4名のソリストによるピアノ協奏曲の演奏を聴きました。

東京音楽コンクールというのは、ウェブサイトによりますと「公益財団法人東京都歴史文化財団 東京文化会館、読売新聞社、花王株式会社、東京都の四者が主催し、芸術家としての自立を目指す可能性に富んだ新人音楽家を発掘し、育成・支援を行うことを目的として実施するコンクール」とのことです。今年で21回目を数えます。

まず驚いたのは、東京文化会館が満席になっていたことです。実は、このコンクールのことを、佐藤先生から伺うまで、私は存じませんでした。観客席は未来の演奏家を見極めんとの熱気に溢れかえっているようでした。協奏曲全楽章を一つのコンサートで4曲も聴くということは、普通はありません。このファイルナルの入場料は2000円ですから、コンクールの一環とはいっても、大変お得なコンサートと捉えられなくもありません。それにしても東京文化会館の大ホールが埋まっているのは壮観でした。客席には、親子と思しき人たちも結構見られました。

東京文化会館 大ホール

東京文化会館 大ホール(写真:東京文化会館

最初の演奏は、佐川和冴さんによるベートーヴェンの4番。生真面で折り目正しい人柄の感じられる演奏でした。次が島多璃音さんのラフマニノフの2番。パッションに満ちた演奏で、観客からブラボーの声が飛びました。次は、角野未来さんによる「パガニーニの主題による狂詩曲」。赤の軽やかなドレスにポニーテールで現れた角野さんは、実に躍動感ある演奏を披露してくれました。最後は渡邊晟人さんによるリストの協奏曲1番。音色のバラエティが豊かで成熟した音楽を聴かせてくれました。

4名の演奏を聴き通した聴衆は、最も良かったと思う演奏者に投票する権利があります。会場には、投票箱が置かれていました。もっとも多くの票を集めたコンテスタントには聴衆賞が贈られるシステムになっています。第1位から第3位を決めるのは、聴衆賞とは関係なく、もっぱら大会の審査員の評価によります。

結果はそのうちネットに公開されることだし、演奏を聴いてそのまま帰っても良かったのですが、恩師からのコールもあったので、授賞式に残ってみました。驚くべきことに、半分以上の聴衆が授賞式に残っていました。本当に、みなさん熱心にコンテスタントを見守っているのです。

授賞式では、審査委員長の野平一郎さん(作曲家で東京音楽大学学長・静岡音楽館AOI 芸術監督)がスピーチに立たれました。東京音楽コンクールにはヴァイオリンや、歌、管楽器・木管楽器などの部門があるのですが、「木管楽器はクラリネットもオーボエもフルートもあって、何を比べるのかということになるが、モーツァルトの協奏曲という一つの尺度がある。しかし、ピアノのコンクールは楽器の種類は同じとはいっても、ベートーヴェン、ラフマニノフ、リストの協奏曲の演奏で比較するというのは、木管楽器部門の審査よりも難しい」との感想を述べられておられたのが印象的でした。そもそもコンクールという形態自体が音楽にはそぐわない部分もあるのかも知れません。舞台には、審査員がずらりと並んでいましたが、その中には田部京子さん、有森博さん、スピーチにも立たれた東誠三さんなどもいらっしゃり、コンサートでしかお目にかかれないような現役のピアニストを目にして、心躍りました。

結果は聴衆賞がラフマニノフの2番コンチェルトを弾いた島多さん、ベートーヴェンの4番コンチェルトを弾いた佐川さんが1位。島多さんが2位、角野未来さんは3位という結果でした。ラフマニノフやリストと比べると、ベートーヴェンの譜面のテクスチャーはシンプルであり地味にも映りますが、聴衆の熱狂を攫うのとはまた別の側面が評価されての結果かと思われます。個人的には、角野未来さんの思い切りの良い演奏は好みでした。お兄様である角野隼斗さんの活躍を目にしながら、彼女としても奮起の思いがあることでしょう。今回ファイナルに残られた方々は、どなたも演奏家としての魅力があり、楽しみな方々だと思います。

後日談

東京音楽コンクールで聴衆賞と第2位を獲得された島多璃音さんは、9月26日から10月3日にかけて、イタリアのセレーニョにて開催された第33回エットーレ・ポッツォーリ国際ピアノコンクールにて、聴衆賞を受賞し、第1位なしの第2位をロシアのピアニスト ウラジーミル・スコモロコフと分け合いました。このコンクールの第1回優勝者はポリーニでした。今回のコンクールのファイナルを配信で視聴しましたが、島多さんのラフマニノフ第2番協奏曲は、東京音楽コンクールの際よりも、パッションと明晰さがさらに加わり、ファツィオリの音も大変引き立っていました。3名のファイナリストの中では断トツだと感じました。この夏、第3回藝大ピアノコンクール(優勝)、ピティナ・ピアノコンクール特級(2次進出)、東京音楽コンクール、ポッツォーリ・ピアノコンクールと駆け抜けられた島多さんに拍手を送りたいと思います。

(文・安永 愛)