Shigeru Kawai 試弾
夏の陽射しも眩しい7月14日、「カワイピアノ カワイ表参道」に行って参りました。
株式会社河合楽器製作所は、1999年より、2代目社長河合滋(1922-2006)名を冠したShigeru Kawaiというハイエンドラインのピアノを製造しています。Shigeru Kawaiは、スタインウェイ、ヤマハCX、ファツィオリと並びショパン・コンクールでも公式ピアノとなっています。2021年のショパン国際ピアノコンクール予備審査通過者87名のうちShigeru Kawaiを選んだコンテスタントは6名でしたが、3名が本選出場(本選出場者は12名)を果たすという好結果を残しています。
2021年のショパンコンクールはYouTubeでも配信され、ポーランドとの時差の関係で、深夜から明け方に差し掛かるライブも、ついつい見てしまい寝不足状態になりましたが、Shigeru Kawaiを選んだ奏者(特に第2位のアレクサンダー・ガジェヴ)の音楽性に総じて惹かれるものがあったため、それ以後、Shigeru Kawaiは非常に気になる存在でした。表参道のカワイで試弾を受け付けていることを知り、ネット上のフォーマットに沿って予約を入れました。試弾を希望する機種にチェックを入れます。与えられた時間は1時間。予約後すぐさまパンフレットも数冊郵送されてきて、試弾前に楽器の細かなスペックを知ることができました。
カワイ表参道のビルは、けやき通りに面しています。のびのびと枝を伸ばしたけやきの並木が清々しく、ファッション感度の高い人たちが行き交うエリアで、ちょっと背伸びして出かける感じもあります(笑)。河合のビルの3Fがグランドピアノの陳列されているフロアーです。フロアーには、防音室のコーナーもあり、まず、そちらに通されましたが、天井高も通常の個人住宅の高さで5.4畳というリアルサイズの練習室といった趣きです。そこに小ぶりのShigeru Kawaiが置かれているのですが、圧迫感は意外となく、吸音されすぎるという不満もなく、確かに練習環境としてはなかなか良いと感じました。扉を閉めますと、店員の方の弾くピアノの音は、かなりシャットダウンされました。これなら、隣家を気にしないで良いのはもちろんのこと、家族にうるさがれることもないでしょう。
続いて、防音室を出て、Shigeru Kawaiの各モデルの並ぶフロアーにて、小さい機種から試弾を勧められました。まずはSK-2です。最小サイズといっても、奥行きは180センチです。音の立ち上がりがクッキリとしていて、また音に奥深さが感じられます。小ぶりとはいっても、大変パワーのあるピアノだと感じました。SK-3(奥行き188センチ)、S K-5(奥行き200センチ)、S K-6(奥行き214センチ)と順に弾いて行きましたが、本当に弾いていてストレスのない、思った通りに鳴ってくれる楽器です。筆者の自宅のピアノ(1965年製スタインウェイM型)は、いい加減に弾くといい加減な音が出ますが、Shigeru Kawaiは、ちょっといい加減な感じて弾いても、とても端正な音となり、そのことにびっくりしてしまいました。ピアノの音質を言語化するのは非常に難しいのですが、煌びやかさを追求しているのではなく、存在感を追求しているというのでしょうか、そのようなピアノであると感じました。調律師の腕前も関わっていると思いますが、音が心地よいのはもちろんのこと、タッチに全くストレスがありません。
(左)作業中の調律師 (右)防音室
SK-5, SK-6あたりになってきますと、広いフロアーで弾いていましても大変響きますし、正直なところ、自分ではコントロールできないほどのピアノのパワーを感じてしまいました。自宅に置くならSK-3あたりでも十分満足なのではないか、とそんなことを感じました。価格的にも、スタインウェイの中古とどちらにするか、迷う方も多いのではないでしょうか。Shigeru Kawaiを弾く会というのが、各地で組織されているほど、熱心なファンを獲得している楽器と最近知りましたが、噂に違わず魅力的なピアノであると思いました。
S K -2(奥行き180センチ)
フロアー中心に置かれていたShigeru Kawaiのフルコンサートグランドについては、試弾を受け付けていないとのことでしたが、こうしたピアノはやはり、コンサートホールで弾いてこそ、その真価が発揮されるものであるでしょう。私は、小一時間をShigeru Kawaiの楽器と過ごして、十分に満足を得たのでした。
(文・安永 愛)