「Bravo Concert」(於:ルーテル市ヶ谷ホール)
8月26日、東京のルーテル市ヶ谷ホールにて、Bravo Concertが開催されました。静岡在住の中山絵理さんが代表を務めておられる「音束」の企画で、本学の後藤友香理先生をゲスト出演者に迎え、年齢もジャンルも多様な演奏者が登壇する音楽会です。後藤先生よりコンサートについて伺い、後藤先生とのアンサンブルができるというまたとないチャンスということで、参加を決めました。
各人の制限時間は15分とのことで、何年弾いても仕上がった感じのしないショパンの「舟歌」に、ドビュッシーの連弾曲集『小組曲』冒頭の「小舟にて」のカップリングでエントリーしました。「小舟にて」では恐れ多くも後藤先生にSecondoをお願いいたしました。
夏休みに入れば少しはまとまって練習する時間も取れるだろうと思っていましたが、オープンキャンパスの準備だの、その動画の編集だのに気を取られているうち、あっと言う間に本番が近づいてきました。後藤先生にドレスコードについてお尋ねしたところ、ロングドレスが標準とのことで、ピアノの演奏会といっても、Aラインのワンピースくらいしか着たことのなかった私は、慌ててドレスを探すことになりました。まあ、なんといってもアラカンですから、ドレスだなんて、気恥ずかしいことこの上ない。でも、場の雰囲気を壊すわけにもいきませんから、まあ頑張って探しました。通販も考えましたが、合わなかった時に返品したり直したりしている暇はなさそうです・・・ちょっとお高かかったですが、某デパートで吊しの一着を。お直しなしで済みましたが、ちょっと長めなため、ヒールの高い靴を買う羽目に(しかもペダルを踏みやすいよう考案された靴を通販で買うという念の入りよう)。初期投資が意外とかかってしまったので、これは回収しなくてはなりません(笑)。
しかし、演奏会でドレスを着用する、という効果を侮ってはならないようです。確かに、何かスイッチが入る、というような感じがあるのです。人並みに(人並み以上に?)中年太りしている私ですが、本番の録画をしてくれた夫も、私がドレスで舞台に出てきたことで、「おや、これはピアノの新しい段階に足を踏み入れたな、と思った」と謎の感想を述べていました。
まことに馬鹿馬鹿しいお話で失礼しました。今回は、このドレス効果の他に、自分にとってはとても大きな発見がありました。このコンサートでは、しっかりリハーサルの時間が組まれていましたので、後藤先生との連弾の後、とりあえず、「舟歌」を通して弾こうと思い、低音のオクターブの後、高音部から徐々に下っていく冒頭の数小節を弾いた時のことです。私は思わず、舞台の天井のあたりに目を向けていました。音が立ち上り、空間を満たし、弾いている自分が音に包まれていると思った時、感極まって涙が出そうになりました。思いもよらないことでした。ピアノの音にはこだわってきましたが、ホールの音を聴きながら弾いている、という感覚をその時、はじめて味わったように思います。プロの演奏家の方にとっては、ホールの音を聴くというのは、基本中の基本なのかもしれません。ピアノを始めて半世紀も経ったところでこんなことに気づくなんて、なんとも間抜けな話なのもかも知れませんが、あの瞬間、「ホールで演奏する」機会をできるだけ重ねていきたい、と思ったのは事実です。
ルーテル市ヶ谷ホール(写真:Foursquare)
演奏会参加者には、ピアノとチェロを披露してくれた4歳の男の子、音大大学院で声楽を専攻している方(圧巻の歌声でした)、職場仲間でのピアノとヴァイオリンのデュオを披露された方、ヤマハ勤務の方、静大生もいらっしゃいました。恐れ入ったのは、私以外の大人でピアノを弾かれた方は、何らかのアマチュア・コンクールの受賞歴のある方ばかりだったことです。そこまで厳しく自分を追い詰めることができない私ですが、人生の後半戦に入って久しいわけで、自分なりの音楽の深め方を考えていきたいと感じた演奏会でした。
後藤先生は、5名の参加者とアンサンブル(連弾や伴奏)をなさるとともに、ご友人のヴァイオリニストとフランクの「ヴァイオリン・ソナタ」の第1楽章と第2楽章をゲスト演奏として披露してくださり、すっかり堪能させていただきました。
参加者の方々は初めてお目にかかる方ばかりでしたが、音楽を愛する者同士、控え室でも舞台裏でも、終始温かな雰囲気でした。企画を立ててくださった音束の中山絵理さん、たくさんの曲の準備を短期間のうちにこなし、素晴らしい演奏を聞かせてくださった後藤先生に感謝の思いでいっぱいです。
(文・安永 愛)